夏のスパイ(15首)


上向きの蛇口でふいに水びたし悲鳴の余韻 夕立がくる



     オレンジの風船を追うフリをして君に近づく 深呼吸する



     このままじゃいられないからなんか言おガリガリ君がしたたる前に



ライバルを蹴落とすためにぶちかますこの夏きっての志村食いを



     太ももをシアンに照らすスターマイン やぶ蚊と競う緊張の夏



     出くわした入道雲にふたりして遠近感の狂ったドライブ



「もう無理!アイス買って」の瞬間に 坂の向こうに海が見えてた



     ねねねねね このあと二人でお茶をしよ(それが済んだらイチャイチャもしよ)



     「ごめんね今日はアノ日なの」絹ごし豆腐揉みしだく夏の夜の夢



枝豆のカラを誰かの取り皿に置いてしまったような手違い



     ほほえみのかげにかくれたジェラシーは ぬぬぬぬなんな夏のスパイ



     ふたりもう目の合図することはない なすすべも夏どうしようも夏



振り向いた途端にいやがらせのキス 路上にはじけたぬるいサイダー



     息切らせプールサイドで大の字を バンドエイドがふやけはじめて



          メロン味立ったまんまでひと息にすすれば夏の残りは2秒