或る秋の朝

 フロントガラスの朝露をワイパーで拭うのが日課になった。エンジンの掛かりも悪くなり名実共に秋が来てしまったのだと憂鬱になる。秋はキライじゃない。キライじゃないけど、冬にリーチがかかったようでうっすら悲しいのだ。暖かい缶コーヒーを飲みながらバイパスを走る。車線の真ん中に犬がゴロリと倒れていた。うっ。視界に入らないようアクセルを強めに踏む。
 なんとなく生の声が聞きたくなってソースをiPodからFMに変えた。バイパスを降り県道を右に折れ、医大前を走る。車道と歩道の際にタヌキらしきものがぺったりと横たわっていた。うう。対向車と遺体とに気を払いながらやり過ごす。ラジオの声が遠いような気がしてボリュームを4つ上げる。聞いた事のないヒット曲が流れていた。
 橋を越え、雑草の出しゃばる坂道を登り切り左に折れると町道。滑り降りるように坂道を走ると、走行車線の真ん中に、何かがぺしゃんこになっていた。なんなんだ今日は。見ないように意識しないように轢かないようにとタイヤの間をくぐらせる。
 田舎ではよくある光景だが、こんな連続は珍しい。痛ましいし惨いのは勿論だが、亡骸が視界に入るのが耐え難い。だから私は、出くわすたびううーと呻きながら意識しないように意識しないようにと心を凍らせる。
 なんとも後味の悪い朝だった。そして、避けるということは意識することなんだと気付いた朝でもあった。


街上に轢ひかれし猫はぼろ切きれか何かのごとく平たくなりぬ(斎藤茂吉